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題は『守りたいもの』といったところ……?
引き続き駄文……。ちなみにこの20のお題はすべてリンクさせる予定ですww
いつからだろうか、俺は自分にとって都合の悪い話になると、全く耳が聞こえなくなるという癖があった。今日もその事でクラスの女子と揉めたのだ。
「どうして人の話を聞こうとしないのよ!!!!」と俺を怒鳴りつけたのは、池谷マリだった。
新しい学年に上がって、新しいクラスになって、新しい教科書が手元に渡され、新しいクラスメイトの名前もまだ半分しか覚えてない俺だが、池谷の名前は何故かすぐに覚えた。彼女のウェーブのかかった髪と、パッチリとした目は、まるでビスクドールを連想させる。しかしそんな外見に反して、いつも元気で溌剌としている池谷は、外見も性格も日本人形みたいな女子と仲良くしている。
一目惚れ、なのだろうか。
人を好きになったことなんて無かったから、まだはっきりと「好き」という感覚がわからない。だが気がつくと、彼女にどう思われるか一挙一動を気にしている俺がいる。
そんな俺が、池谷に怒鳴られた。
人の話を聞こうとしないのじゃない。聞こえないのだ。
誰もいない放課後の教室でぼんやりと窓の外を眺めていると、ドアの開く音がした。びっくりしてそちらに目をやると、親友のケイがいた。
「気にしてるんだ」
にやりと人の悪い笑みを浮かべて、ケイは俺の近くに座った。
「何の事だよ……」
慌てて目を窓の外に戻したが、すぐに諦めて俺はケイに目を向けた。隠し事をして、こいつに隠し通せた事は一度も無かったことを思い出したのだ。ケイは凄く聞き上手だし、話の本質を聞き出すのが上手い。だから俺はついつい乗せられて、いつも喋らなくていい事まで喋ってしまうのだ。
「どうせ全部気がついてるんだろ」
ため息と共に吐き出した俺のセリフに、よく解ってるようで、と笑いを含んだ声でケイが返す。
「だって、お前わかりやすいんだもん。池谷さんの事をどう思っているかなんて、お前を観察してればすぐにわかるぜ」
「観察するなよ」
思わず憮然と返すと「物のたとえだっての」と彼は一笑で片付けた。
「前から聞こうと思ってたんだけどさ」
「うん」
「本当のところはどうなんだ? 俺はお前を昔から知ってるけど、本当に聞こえなくなるのか?」
「……うん」
何も言わずにケイは立ち上がって、窓際から外を眺める。そしておもむろに口を開いた。
「きっとさ。お前は自分を守りたいんじゃないのかな」
「え?」
「お前の心がさ、無意識のうちに自分を守ろうとして、『聞こえなく』してるんだよ」
「冗談言うなよ」と軽く流そうとして、俺はそれを思いとどまった。こちらを振り返ったケイの顔は真剣そのものだったのだ。
「人間って都合のいい生き物だからさ。ま、極端な話だけど、自分に都合の悪いことが聞こえなくなっても不思議じゃないんだよ」
でもさ、とケイは続ける。
「人間皆がそんなことしてたら実際のところ困るだろ? 人間関係が滅茶苦茶になるだろ? だから人間は生きている以上、聞きたくないことも聞かなきゃならないんだよ」
「じゃあ、俺は……」心なしか少しかすれた声で俺は応じた。
「俺はどうすればいいんだよ。そんなの俺の心が勝手にやってることで、俺がしてくれなんて頼んだ訳じゃない。どうしたら聞こえるようになるんだよ」
「『人の話を聞かないんじゃない。聞こえないんだ』って思ってないか?」
「そうだろ」俺は頷く。
「それって違うんじゃないか? 厳しいこと言うようだけど、お前は本当に人の話を聞こうとしてないんだよ。アキラの心はアキラ自身だから、アキラを守ろうとしてるのも無意識だけどアキラの意思なんだと俺は思う」
「俺の意思……」
ケイの言ってることは間違ってない。恐らく99%くらいの確率で正しいのだろう。だけどそれを素直に受け入れられない自分がいる。俺はそんな人間じゃないと思いたい俺がどこかにいるのだ。これは偽善なのだろうか。俺は偽善を振りまいて生きてきたのだろうか。本当の俺は善なんかじゃなく、悪なのだろうか。
「ま、そこまで気にするな。俺の話を聞いて、お前の心がどうするかの問題だよ」
俺の肩に手を置いて、ケイは嬉しそうに笑った。
「でもさ、俺が今までこういう話して、アキラが聞こえなくなったこと無いよな。俺、すっごく嬉しいんだよね。だってそれってお前の無意識の心も俺を信用してくれてるってことだろ」
確かにどんなに俺にとって都合の悪い話でも、ケイの話が聞こえなくなったことはない。
「……俺の心は解ってるんだよ、きっと」
俺は彼に聞こえないようにそっと呟く。
「君は俺の事を傷付ける人間じゃないって事がさ」
暮れていく夕日を教室の窓からケイと並んで見ながら、俺は小さく苦笑した。
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